T氏のすべらないコラム
◆"Yes" or "No"
2016年2月
「英語ができる」という意味でよく'英語ペラペラ'という表現が使われる。従来の日本の英語教育は「リーディング」偏重だったから、受験英語に強くても'英語ペラペラ'とはならず、スピーキングは日本人の英語の弱点とされてきた。では「どうすれば英語を話せるか?」――ひとつの解答として「瞬間英作文」がある。これは話したい内容の日本語を英作文して声に出す というものだ。英作文にかかる時間を瞬間化できれば'英語ペラペラ'というわけだ。しかし、英語を話すのにこの方法を取ると、日本人の場合言いたいこととは正反対のことを言ってしまうパターンがある。かつて小欄で「ベシャリ上手」(弁の立つ)代表としてスポーツ界ではモハメド・アリ、音楽業界ではジョン・レノンを挙げたが、この二人、実は若き日に「ベシャリ対決」をしたことがある。そのオチが日本人の苦手とする英語表現だった。
英国の人気バンドだったビートルズが米国でも人気を得たのは当時高視聴率を誇った「エド・サリヴァンショー」出演からだ。ビートルズはこの番組に4度出演したのだが、2度目の出演の時、当時のボクシング世界ヘビー級チャンピオン、ソニー・リストンに会いたいと希望した。ところが、リストンはマッシュルームカットの4人組をイカれてると思い、特にリンゴ・スターには "My dog can play drums better than that guy."「俺の犬の方があいつよりドラムをうまくたたける」と暴言を吐いて共演を拒否した。そこでビートルズが "second best" 「第二希望」として妥協したのがリストンに挑戦することが決まっていた22歳のキャシアス・クレイ(リストン戦勝利後モハメド・アリと改名宣言)だった。クレイは愛想よく振る舞い、特にポール・マッカートニーを気に入り、"The prettiest" と評したが、"but not as pretty as me!"「俺ほどじゃないけどな!」と加えることを忘れなかった。ジョン・レノンは不快だったらしく、後に"He [Clay] made a fool out of us!"「彼(クレイ)は僕たちをバカにしたんだ!」と振り返っている。
そしてクレイはマッシュルームカットの4人組に愛想のつもりだったのだろうか、 "You're not as dumb as you look!" 「君たちは見た目ほどバカじゃないな!」と言った。これを聞いたジョン・レノンはすかさず "No, but you are!"「そのとおり、だけど君はそうだ(見た目どおりのバカだ)!」と返した。この「そのとおり」を "No" ではなく "Yes" とやってしまうのがよくある日本人の間違い英語だ。相手が否定形で話した場合、同意するなら "No"、不同意なら "Yes" と答える。日本語に訳せば「そのとおり」が "No"、「それはちがうよ」が "Yes" だ。ともあれ、若き日の両雄対決はジョン・レノンの見事な一本勝ちに終わった。
今月のクイズ(正解は来月号に掲載)
- モハメド・アリがプロ入り後初の敗北を喫した対戦相手は?
- モハメド・アリがモデルとされる映画「ロッキー」の登場人物は?
- ビートルズの日本武道館公演のレポートで「彼等の使い古しのパンツをもらい、処理に困っている」というウソを書いた作家は?
先月のクイズ正解
- 楡家の人びと
- PLUTO(プルートウ)
- 片岡愛之助
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