T氏のすべらないコラム

◆しかしてその実体は...

2016年5月

NHK大河ドラマ「真田丸」が話題を呼んでいるが、ネットでは果たしていつ堺雅人演じる主人公真田信繁(幸村)が「倍返しだ!」と言うかが関心を集めていた。流行語大賞にもなった同じ堺雅人主演作「半沢直樹」の決め台詞だが、これには脚本家の三谷幸喜が新聞紙上でそんな台詞は絶対に書かないと言明したので、どうやら実現することはなさそうだ。三谷氏本人としてはそんなあざといことをやると思われること自体が心外らしいが、一般のイメージ的には「ウケ狙いでやりそう」ということだったらしい。かつてタモリが寺山修司のモノマネをやったとき、「寺山本人は絶対に言わないが、いかにも寺山が言いそうなことを言う」と評されたが、イメージというものは実体を離れて独り歩きすることがある。

歴史では仏王妃マリー・アントワネットの例がある。庶民とのあまりの生活格差がフランス革命を誘発したともいわれ、庶民が主食のパン不足で困っていると聞いた彼女が"Let them eat cake." と言ったとされる。これも「いかにも彼女なら言いそう」という庶民の抱いたイメージで、実際は言っていない。"Of course she didn't, she spoke French!" というオチではなく、彼女は "Qu'ils mangent de la brioche." とは言わなかったのだ(日本ではパン不足の説明を足して「パンがなければケーキを食べればいいのに」と訳されている)。しかし、彼女のイメージを象徴する言葉だったため、長く事実のように語り伝えられることとなった。

マリー・アントワネットは、7歳の時に母マリア・テレジア主催の音楽会に出席し、奏者として参加した当時6歳のモーツァルトに「僕のお嫁さんになって」とプロポーズされたという。これは史実だが、幼少時からいかに優雅で、庶民とかけ離れた生活だったかを示している。これが庶民同士の子供となると――映画「ブリジット・ジョーンズの日記」では、やはり幼児期に遊んだ二人、主人公ブリジットと弁護士マークのロマンスが描かれるが、彼等の場合は優雅さのかけらもない。幼児期の覚えがないブリジットが "Did I really run round your lawn naked?" と確認すると、マークは "Oh, yes. You were four and I was eight." つまり、ブリジット4歳、マーク8歳の時にマーク家の芝生を裸で走り回っていたというのだ。そしてマークがブリジットに愛を告白する場面、「自分のいろんな欠点は別にしてでしょ」と言うブリジットにマークは "No, I like you very much. Just as you are." そんなすべてを含めありのままの君が好きだと答える。「ありのまま」といえば "Let it go!" が流行ったが、こちらは特殊能力を持つ女王が「能力を解き放つ」という意味、「ありのままの自分」と言いたければ我々庶民には "Just as I am." をお勧めしたい。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 三谷幸喜が俳優として大河ドラマ「功名が辻」で演じたのは?
  2. 英語の回文 "Able was I ere I saw Elba." を言ったとされるフランス人は?(もちろん史実ではありません)
  3. 映画「ブリジット・ジョーンズの日記」でマークの恋敵役を演じた英国の俳優は?

先月のクイズ正解

  1. およげ!たいやきくん
  2. 埼玉県
  3. 仲代達矢

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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