T氏のすべらないコラム

◆ブラックもいろいろ

2015年12月

バブル期の日本、夜な夜な六本木で遊んでいたある米国人男性が、そこで親しくなった日本人女子学生の父親にいきなり怒鳴り込まれたことがある。この父君、最初から興奮していて第一声が「うちの娘は外人に目がないんだ!」だったそうな。言われた米国人男性は「どこに目をつけてるんだ!」程度の表現なら十分理解できるほど日本語に堪能だったが、さすがに「目がない」の意味はわからず、しばし呆然となったらしい。
簡単な単語だが、組み合わさると意外な意味になる例は英語にもある。筆者が「何それ?」と思ったのは中学時代の英会話の授業で英国人講師が言った 'to a T (tee)' だ。確認すると「細かいところまで正確に」という意味で、'T' は 'tittle'(i や j の上部の小点)の頭文字、つまり「小点のような細部まで正確に」ということだった。謎ならX、始まりはA、終わりはZと、文字が象徴する意味はあるが、Tにそんな意味があるとは意外だった。

文字よりもイメージが明確なのが色だ。黒にはブラック企業、ブラックバイトのように、暗黒の暗いイメージがある。米国でも、世界大恐慌の発端となった1929年の Black Thursday、あるいは1987年の Black Monday はニューヨーク株式市場が大暴落した日を表す。この2つは歴史的事件だが、毎年訪れるのが Black Friday だ。ただし、こちらの黒は暗黒のイメージではない。今年は11月27日、感謝祭翌日の金曜日、感謝祭からクリスマスに続くホリデーシーズンの初日で、買い物客が店舗に殺到するため、迎える店は大幅'黒字'、つまり Black Friday というわけだ。
黒字は英語で in the black、赤字は in the red と、表す色が日本語英語共通なのは簿記の色分けからだが、'簿記'は英語の'bookkeeping'の音を日本語化したものだから、赤黒の色の意味が同じなのは当然だ。

しかし、最近はオンラインショッピングに押され、Black Friday でも実店舗の営業黒字は年々減少している。これを象徴する言葉が showrooming だ。これは実店舗のショールーム化を表すが、店にとって良い意味ではない。実店舗をショールーム代わりにして現物を確認し、買うと決めたらオンラインショッピングで購入するということだからだ。おかげで米国が誇ったショッピングモールもさびれる一方で、復活の'目はない'とも言われている――この「目はない」が冒頭の「目がない」と全く意味が違うのは言うまでもない。
米国ではベビーブーム世代が Black Friday の黒字を最高にし、続くX世代が showrooming に走ったといわれる。X世代とはダグラス・クープランドの小説の題名に由来し、60年代から80年代前半に生まれた世代を指す。Xは謎を象徴し、以前の世代が理解できない謎の世代というわけでX世代――こちらは 'to a T' より随分わかりやすい命名で、'謎'ではない。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. バブル期の日本を象徴するCMで♪24時間戦えますか?♪と歌った時任三郎扮するキャラクターの名前は?
  2. 'to a T' という表現にはスポーツ由来説もあるが、そのスポーツは?
  3. 'bookkeeping' を「簿記」という造語で日本語化したとされる人物は?

先月のクイズ正解

  1. レオナルド・ディカプリオ
  2. シャーロック・ホームズ
  3. キーラ・ナイトレイ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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