T氏のすべらないコラム

◆アルキメデスが教えてくれた

2015年6月

当代きってのベストセラー作家東野圭吾氏が推理小説に興味を持ったきっかけは小峰元作「アルキメデスは手を汚さない」だという。アルキメデスは古代ギリシャの学者で、2つのエピソード(現代英会話でも使われる間投詞と今年のホワイトデーの米語表記につながる)が有名だ。1つは、入浴中に「アルキメデスの原理」を思いついたアルキメデスが興奮のあまり裸のまま 'Eureka!' と叫びながら街中を走ったという話――このギリシャ語はそのまま現代英語でも「わかったぞ!」という意味で使われる。もう1つは彼の最期――円を描いて幾何学に関する考察中踏み込んだ敵国兵士に「私の円を踏むな」と怒ったがためにその場で殺された。アルキメデスは円周率算出でも知られる。今年のホワイトデーとの関係は?――2015年3月14日の米語表記は 3/14/15――3.1415 円周率の数字配列というわけだ。

「アルキメデスは手を汚さない」は1973年度江戸川乱歩賞受賞作で、主な登場人物は高校生だ。1970年代の共学高校生は修学旅行でフェリーを利用する場合、デッキ組と船底組に分かれた。カップルの男女はデッキで夜を過ごし、相手のいない男女は船底というわけだ。この小説ではこの文化?を利用したアリバイ工作が新聞の読者投稿欄により崩れる。1976年の山口百恵主演のTVドラマ「赤い運命」でも新聞の読者投稿欄が重大な役割を果たすから、70年代のメディア事情で新聞投稿欄の影響力は今より大きかったといっていい。

新聞以上に中高生に影響力があったのがラジオの深夜放送だ。「アルキメデスは手を汚さない」も深夜放送で絶賛されて人気に火がついた。映画ではブルース・リー、サントラ盤も深夜放送でヒットした。彼の主演作で現在なら物議をかもしそうなのが「ドラゴン怒りの鉄拳」――上海を舞台に登場する日本人が全員悪逆非道、主人公が一人で柔道場に乗り込み、悪役日本人を退治するというストーリーだからだ。悪役退治の後、中国人警察署長に主人公は、"If I turn myself over to you, will you leave the Ching Wu School alone?" 「自分の身柄を引き渡せば精武館(所属道場)には手を出さないか?」と確認する。turn over は「提出する」の意だが、目的語が人だから「引き渡す」。署長は "You have my word on it. Don't worry, on my word of honor." 「約束する。心配するな、名誉にかけて誓う」。固い約束に使える英語表現だ。そして銃口を向ける日本人集団に主人公が跳躍して終わる。こうして主人公は死ぬのだが、これには続編があり、その後悪の度を増す日本人集団に追い込まれて台湾に渡った精武館に入門したジャッキー・チェン演じる新主人公が悪逆非道の日本人集団に立ち向かうという内容に、日本の映画会社社長が「誰がこんなもん、見るの?」――日本公開は見送られた。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 東野圭吾作「白夜行」のヒロインが再登場する作品は?
  2. 2005年放映のリメイク版「赤い運命」主演女優は?
  3. 「ドラゴン怒りの鉄拳」でヒロインを演じた女優は?

先月のクイズ正解

  1. 新人類の旗手たち
  2. バーナビー・ロス
  3. 激突!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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