T氏のすべらないコラム

◆試験に'でた'英作文

2015年3月

「米朝会談」と新聞の見出しにあれば「米国と北朝鮮の首脳が会談した」と解釈するのが普通で実際そのとおりなのだが、これを関西人が見た場合「あの人が誰かと会ったのか」と思うとまで言われた「あの人」――上方落語界の巨星桂米朝師匠が亡くなった。米朝師匠は持ちネタの多いことでも知られるが、個人的には「百年目」をベスト演目に推したい。しかし、この「百年目」のオチ、「ここで会ったが百年目」という言葉を知らないとわけがわからない。これはかつては英作文の試験にも出題された文句で、研究社の新和英中辞典を引くと You're not going to get away now I've caught you here. という英文が記載されている。つまり長年さがしていた敵を見つけ、「もう逃げられないぞ」と言う時の台詞なのだが、今の高校生なら英語の方がわかりやすいとなり、定期試験などに出題すれば抗議殺到だろう。

元高校英語教諭が昔「雀百まで踊り忘れず」という英作文を出題したところ、Sparrows don't forget dancing until they are one hundred years old. という珍答があったと話したら、皆どこが珍答かとポカンとしていたという。ちなみに正解は What is learned in the cradle is carried to the grave. 「幼児期に習い覚えたことは生涯(ゆりかごから墓場まで)忘れない」という意味だ。昔の英語の試験にはこのように日本語にも熟達していないと解けない問題が結構あった。

英語にも文字通りの意味ではない語句は多い。「玉にきず」という意味の a fly in the ointment は直訳すれば「軟膏の中のハエ」、「誰々にはちんぷんかんぷんな」の be all Greek to ~ は「誰々にはすべてギリシャ語」、「ぎりぎりになって、土壇場で」の at the eleventh hour は「11時間目に」となる。順番にそれぞれ旧約聖書、シェークスピア(戯曲「ジュリアス・シーザー」)、新約聖書からの表現で、原典を読めば意味の由来もわかるが、受験生時代丸覚えした向きも多いだろう。

米朝師匠には落語を論じた著書も多い。実演者かつ論者といえば、西の米朝、東の談志(故立川談志師匠)で異論は出まい。その談志師匠が始めたTV番組「笑点」は映画化、ドラマ化もされた小説「氷点」をもじって名づけられた。長谷川町子氏にも「『ふっとう点』でベストセラー作家になる主婦」が登場する漫画があるが、どちらも今「氷点」のパロディと気づくのは少数だろう。英語には Catch-22 という「ジレンマ状態」 を意味する語がある。これは映画化もされた小説の題名が由来だ。こちらは小説も映画も知らない世代が主流となっても、単語としてはすっかり定着し、寿命は尽きそうにない。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 桂米朝は落語家として2人目の人間国宝だが、3人目で現役の落語家は?
  2. 小説「氷点」の作者は?
  3. 映画「キャッチ22」に俳優として出演した歌手は?

先月のクイズ正解

  1. マット・デイモン
  2. ジョージ・H・W・ブッシュ
  3. パトリック・マクグーハン

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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