T氏のすべらないコラム

◆どこの誰かは知らないけれど

2014年12月

かつてある学校の社会科教諭が日本史の試験問題としてウケ狙いでも何でもなくまじめに「江戸幕府八代将軍徳川吉宗は別名(  )将軍と呼ばれた」という問題を出したところ、「暴れん坊」と記入した生徒が少なからずいたという。これはもちろん正解ではなく、吉宗は当時の財政の基本である米相場(今ならさしずめ円相場)を常に気にしていたので、米将軍と呼ばれていたというのが正しい。
この問題にはもう一つ正解がある。無論「暴れん坊」ではなく、「八十八」。 これは米という字を分解して八十八とし、直截的表現を避けたものだ。漢字文化圏の言葉遊びと言っていい。

フレデリック・フォーサイスのベストセラーを映画化した「ジャッカルの日」ではフランスのド・ゴール大統領暗殺を狙うコード名ジャッカルと仏警察ルベル警視の死闘が描かれる。ジャッカルは謎の人物だが、捜査を進めるうち英国人チャールズ・カルスロップという人物が浮かぶ。そこで、一人があることに気づく。"Your friend's code name is Jackal, right? Jackal in French is chacal. See? Now it might just be a coincidence..." 「そいつ(追い求める相手ということで friend)のコード名はジャッカルだよな。ジャッカルは仏語では chacal だ。ということは合致することがある...」"...but the first three letters of his Christian name, Charles..."「こいつのクリスチャンネームのチャールズの最初の3文字が...」"...and the first three letters of Calthrop make up--" 「そしてカルスロップの最初の3文字で...」――姓名最初の3字ずつをつないでできる仏単語を英語化したのだ。アルファベット文化圏の言葉遊びと言っていい。

英警察はカルスロップの住居であるアパートを突き止め、急行するが、もちろん本人は不在、周囲によると海外出張中だという。そして...歴史上明らかなようにド・ゴールは暗殺されず、ジャッカルはルベルに射殺される。その報を受けてカルスロップの住居を捜査中の英警察の前に一人の人物が現れる。
"Who are you?" と尋ねる捜査官にこの人物は "- Charles Calthrop. This is my bloody flat." 「(一瞬の沈黙後)チャールズ・カルスロップ。ここは間違いなく私の部屋だ」――flat はイギリス英語で、米語なら apartment、bloody はイギリス英語では「まさしく」といった強調の意味もある。つまりジャッカルはカルスロップではなかった。では一体...というところで映画も原作も終わる。bloody は普通「血まみれの」という意味だから、my bloody flat は「私の血まみれの部屋」ともとれ、暗殺者なら洒落になるが、カルスロップ氏は間違いなく(bloody)ウケ狙いでも何でもなくまじめに言っている。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 「もう、暴れん坊将軍なんだからぁ」と婚約者に迫る?財閥令嬢本阿弥さやかが登場する浦沢直樹作の漫画は?
  2. 映画「ジャッカルの日」の監督は?
  3. 「ジャッカルの日」でジャッカルが乗っていたイタリア車は?

先月のクイズ正解

  1. 東野圭吾
  2. カルバン・クライン
  3. JIN-仁-

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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