コンサルタントの本音

◆デザイン思考

2014年4月

デザイン思考の研修が増えている。イノベーションを生みだすために社員にデザイン思考を身に着けさせたいという目的によるものだ。新しい価値を生み出す能力を高めていかなければ、中国・韓国などアジア諸国の台頭に対して、伍していけないという強烈な危機感から派生している。

デザイン思考の研修のルーツの一つは、アップル社のマウスを生み出した米IDEO社であり、スタンフォード大学のDスクールである。彼らのデザイン思考は、技術革新=イノベーションという思考から抜け出て、社会をデザインすることでイノベーションを起こしていくことを意識している。人間主体の発想で、生活そのものを変えていくことを意図したものであり、その過程を通じて新たな価値ある事業を生み出すという発想である。

彼らのデザイン思考のプロセスは、共感-問題定義-創造-プロトタイプ-テストという流れになっている。共感と問題定義の段階において「観察・交流・体験」を通じて、顧客の問題に深く入り込み、共感しなければわからない解決のあり方をさぐって何が問題かを明らかにする。かつては、具体的な製品・サービスの機能が価値となっていた。しかし、今では、機能そのものではなく、新しい経験、使いやすさといった人の感覚による価値が主流となる時代に変容しつつある。さら更に、それらを通じた人の価値観や行動の変化を促すことを主体的に行っているという顧客からの信頼や市場でのポジショニングの在り方そのものが現代の企業にとっての価値になり始めている。

これまでの企業内研修では、問題解決、分析、ロジカルシンキングといった研修を通じて人材を育成してきた。それにより、論理的に問題を解決するという意味での会社の能力は高まり、財務的成果に対する意識の向上につながった一方で、顧客志向が薄れ、画一的な管理思考が強まった結果、自由で斬新な発想が発揮されにくい社会になってきたのかもしれない。

そこに登場したのがデザイン思考の研修である。「観察・交流・体験」を通じて相手中心の思考に変わること、一人ひとりの考えを大事にし、そのアイデアを尊重することで今までにない発想を生み、アイデアを事業化しようという考えを身につける研修である。狙いはいいのだが、今のデザイン思考の研修の中には、どちらかというと若手が新しい手法に接して楽しそうに学んでいるところで留まっているレベルのものが多いように見える。これでは一過性の研修で終わってしまうリスクがある。

また、デザイン思考を身に着けるだけでは、新規事業やイノベーションは生まれない。デザイン思考のスキルを身に着けると同時に、どのようにデザイン思考のプロセスを社内に導入し、成果に結びつけるかを考えることが重要になる。経営幹部は今からその取り組みを急ぐべきだ。そのためには経営幹部自ら、あるいは右腕となる人材が、デザイン思考の本質は何なのかを十分理解し、デザイン思考の何が活用できるのか、どのように社内のプロセスに取り込むかを検討、判断できるようになることが最大の鍵になる。弊社で実施している「マネジメントに活かす創造的思考法-イノベーティブ・シンキング-」でもデザイン思考を取り入れているので、ぜひ参考にしていただきたい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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