T氏のすべらないコラム

◆王様は肉食系

2013年7月

日本の作詞家でシングル売上枚数歴代1位といえば、長く故阿久悠氏だったが、今年2月、秋元康氏が追い抜いた。秋元氏の場合、総売上の約3割がAKB48で、「作詞家売上日本一」を'フライングゲット'したというところか・・・。
このフライングゲットは和製英語(英語としては通用しない)だが、秋元作品では「フライングゲット 予約待ってるようなまわりの男たちを出し抜いて」と使われている。対して阿久作品代表のピンクレディーだと、「男は狼なのよ、気をつけなさい」といかにも古めかしくなるが、ともに描かれる男性は草食系ではなく肉食系だ。

草食系を英語で言えばと聞いたところ、「ベジタリアン」と返されたことがあるが、それは菜食主義者で、正解は herbivore だ。英米メディアでも 'Japan's herbivore men' と「草食系男子」が紹介されている(passive types who are shy about relationships と解説付きで)。
肉食系男子だと 英語では carnivore men(who are active in seducing women)となる。

英米で歴史上の肉食系男子代表は?と聞けば16世紀の英国王ヘンリー8世の上位入りは間違いない。生涯6度の結婚、特に最初の王妃と離婚してその侍女と再婚した際には、それを認めないローマ教皇と絶縁し、自ら英国国教会を創始したことで知られる。
米国のTVドラマ「奥様は魔女」に主人公の魔女サマンサが他の魔女の呪いでヘンリー8世の時代にタイムトリップさせられ、肉食系そのものの王に追い回されるエピソードもある。ヘンリー8世がサマンサを見た後、同席者の一人が 'Do you imagine for a moment that the Lion of England would let this cub go?' と問いかける。「英国のライオン(英語でも好色漢ぶりを例えるのに「肉食獣の王」を用いている)がこの獲物を解放すると、ちょっとでも想像できるか?」というわけだ。「あの肉食系が放すものか」の意で、学校英語では The Lion of England is the last man who would let this cub go. とするところだ。the last man who would ~ で「最も~しそうにない人」と習うからだが、会話表現としては硬い。学校英語と実践英会話の違いと言える。

前記阿久作品の続きにある「羊の顔していても心の中は狼が牙をむく」は、一見草食で油断させて実は肉食――現代用語では「ロールキャベツ男子」となる。これを米国人に sort of like a hamburger in a cabbage roll と説明したら、「野菜の中が肉」は「一見草食、実は肉食」とは違うのではないかと指摘された。英語でも a wolf in sheepskin とは言うから、阿久悠時代の方がある意味表現はグローバルだったのかもしれない。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 'ギネス・ワールド・レコーズ'で「ポピュラー音楽史上最も成功した作曲家」と認定されている菜食主義者としても有名な Sir の称号を持つ英国人は?
  2. 人妻(後に離婚)と結婚しようとして英国国教会や議会に認められず退位したため「王冠を賭けた恋」と言われた20世紀の英国王は?
  3. 「王冠を賭けた恋」で退位した国王の弟で後継国王となるジョージ6世を演じてアカデミー賞主演男優賞を受賞した英国の俳優は?

先月のクイズ正解

  1. ジャン・デュジャルダン
  2. ベンジャミン・バトン 数奇な人生
  3. キャンディーズ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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