T氏のすべらないコラム

◆「いらっしゃい」も使い様

2013年5月

上方落語界の重鎮、月亭八方師匠は甲子園大会常連だった高校野球部OBだが、入部早々2学年上の主将のプレイを見て、「どんなに頑張っても、ああはなれない」と才能の違いを実感し、野球の道をあきらめたという。主将は、その後東京六大学リーグ、プロ野球巨人で活躍する高田繁選手(現横浜DeNAベイスターズGM)だった。
それから演芸場に通うようになり、自分とさして年恰好の変わらぬ落語家が「いらっしゃい!」とやって受けるのを見て、今度は「『いらっしゃい』くらい俺でも言えるわ」と芸人の道に進まれた。その落語家は、今でも日曜日の昼時「新婚さんいらっしゃい!」とやっている現上方落語協会会長、六代桂文枝(当時三枝)師匠だ。

この若き日の八方師匠が「俺でも言えるわ」と思った「いらっしゃい!」、文枝師匠が米国で字幕落語をやった時には 'Welcome!' となった。字幕を追っている米国人には受けなかったようだが、英訳としては適切だ。これが'Welcome to ~.' となると、「~(地名等場所)へようこそ」という意味になる。歓迎の意として一般的で、学校英語でも基本的表現として教わるはずだ。だが、これには素直な?歓迎表現以外に皮肉な使い方もある。

'Welcome to the O.C. (OC へようこそ)'というのは、米国のTVドラマ 'The O.C.' の第1回に登場する台詞で、番組を象徴する表現としてシリーズ中何度も回想される。 O.C. は、Orange County(オレンジ郡)の略称で、ロサンゼルス近郊の海沿いにあり、高級住宅街として有名だ。そんな町に距離的には近いが、住民は O.C. と対極的な町チノから故あって主人公が転校してくる。来る早々揉め事となり、ライバルとなる同級生に 'Welcome to the O.C.'と言われて殴られる。

この場面、決して主人公の転入を歓迎しているわけではない。「この土地の洗礼を受けろ!」的な意味で使われている。ケネディ空港に着いた旅行者が置き引きに合うのを見たニューヨーカー (New Yorker)が 'Welcome to New York.'と言うのと同じだ。「これがニューヨークだ!」といったところだが、「どうだ、わかったか」的な意味合いになる。

初来日で満員電車から降りてぐったりしている米国人に 'Welcome to Tokyo.'と使うこともできる。「郷に入れば郷に従え」といえば、'When in Rome, do as the Romans do.' だが、それとはちょっと違う。「ここはこんな所だ」と突き放す 'Welcome to ~.' のちょっとひねった使い方である。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 「高田の背番号も知らないくせに」という歌詞のある「朝刊」の作詞作曲者で、歌ったフォーク・デュオ、グレープの一人は?
  2. 「新婚さんいらっしゃい!」の4代目アシスタントで、「2時間ドラマの女王」の異名を持つのは?
  3. ニューヨークの空港名は第35代大統領だが、オレンジカウンティ(O.C.)の空港名となった米国の俳優は?

先月のクイズ正解

  1. 桑田佳祐
  2. ベラスケス、レンブラント
  3. ハン・ソロ(2015年公開予定のシリーズ新作で久々の登場決定)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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