T氏のすべらないコラム

◆思い込みは禁物

2013年4月

ビートたけし氏が大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」に出演した時のロケ地は熱帯の南太平洋ラトンガ島だった。
ロケ中大島監督がたけし氏を下から撮る画が欲しいから、たけし氏の立つ前に穴を掘って穴の中から撮影するようカメラマンに命じた。猛暑の中、急いで穴を掘り、撮影した映像を見た監督、「だめだ!もっと下から撮れ!もっと深く穴を掘るんだ!」と怒鳴りつける。汗だくで穴掘りを再開するスタッフを前にたけし氏が恐る恐る「監督、おいらが台の上に乗って撮った方が早いと思うんですが・・・」と提案したところ、眼光鋭く睨みつけられてビクッとしたが、続く言葉が「たけし君、君は天才じゃないか」で、結局台上のたけし氏を撮影することで一件落着となったそうな。

黒澤明監督最後の作品「まあだだよ」の主人公、内田百閒のエッセーに友人から謎を提示される話がある。この謎は、百閒はわからないで済ませ、島田荘司氏作「写楽 閉じた国の幻」では形を変えて使われ、TV番組「探偵!ナイトスクープ」では実演により究明されている。
内容は:「3人で宿屋へ宿泊した代金が30円。1人10円ずつ出して客室係に渡す。帳場で5円まけてくれるが、係が2円着服し、3円だけ返却。1人1円ずつ受け取る。つまり、1人当たりの支払いが9円。9円×3人で27円。着服された2円との合計29円。最初に出したのは30円だから、1円が消えている」
これなど問題の提示の妙で、本来数学的には不思議でも何でもないものが謎に仕立てられているにすぎない。問題の式の立て方自体が誤っているのだ。

英語で bad 「悪い」の比較級は worse だ。これを more bad などと言えば、英文法の試験では間違いとなる。この場合の more の反対語は less だ。
more bad がだめなら、less bad もだめか。さにあらず、例えば、女性弁護士が主人公の米国のTVドラマ'Ally MacBeal'(邦題は「いとしのエリー」とアリーをかけたか?「アリー my ラブ」)に "Today's going to be a less bad day." という台詞が登場する。これは主人公アリーが出勤途上で自分に言い聞かせる言葉で、「程度がより弱い bad」の意だ。
good 「良い」ではなく、not bad「悪くない」でもなく、 昨日よりは less bad 「悪い度合が弱まる」というわけだ。言い換えれば「ましな」となる。
つまり、アリーは「今日はましな1日になる」と自分に暗示をかけているのだ。

「下から撮るにはカメラの位置を下げる」 「等式だと提示されれば式の立て方の誤りを考えない」 「bad の比較級は worse のみ」――いずれの場合も「思い込みは禁物」だ。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 「戦場のメリークリスマス」公開当時ビートたけし氏がTV番組で扮していた「タケちゃんマン」の宿敵「アミダばばあ」のテーマ曲「アミダばばあの唄」を作詞作曲したのは?(本文中にヒント)
  2. 「写楽 閉じた国の幻」で正体が究明される浮世絵師東洲斎写楽は美術研究家クルトに「世界三大肖像画家の一人」と称賛されたが、残る2人は?
  3. 'Ally MacBeal'主演女優の夫が映画「スター・ウォーズ」で演じた役名は?

先月のクイズ正解

  1. 卍固め
  2. ライヘンバッハの滝
  3. ドリアン・グレイの肖像

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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