T氏のすべらないコラム

◆失敗の成功

2012年9月

時代を超えて記録を比較するのはどの世界でも難しい。漫画家の世界でいえば、通算作画枚数記録保持者は一説によると柳沢きみお氏だというが、氏の現在も続く活動期に発表の場であるコミック誌の数が増大したからこその記録ともいわれる。
しかし、ご本人曰く「売れたのは『翔んだカップル』『特命係長・只野仁』だけ」で、発行部数が時に億単位となるコミック界ではベストセラー作家とは言い難い。その代わり?柳沢作品の数は枚数記録になるほど多いわけだが、中でこの2作はともに実写ドラマにもなった代表作だ。
特に「翔んだカップル」は連載時にラジオ、映画、TVでドラマとなり、連載終了後にもう一度TV化されている。原作はいわゆるラブコメとして始まったのだが、話が進むにつれシリアスな青春ドラマに変貌した。ドラマ化でTV(最初の方)がコメディ、他は青春ドラマと内容が分かれるのはそのためだ。

そのTV連続コメディ「翔んだカップル」は、ある回から本編終了後にNG集を流したことでTV史上に残る番組となった。それまで失敗として視聴者には見せなかったNGを初めて放映したのだ。以後NG集はひとつのジャンルとなる。

目を世界に広げれば失敗を見せて成功している代表はピサの斜塔だろう。米国のTV番組「奥様は魔女」に、ピサの斜塔をまっすぐにするエピソードがある。番組ではピサの斜塔が傾いたのはエスメラルダという年齢何百歳かの魔女が斜塔建築当時に魔法を失敗したのが原因という設定になっている。そこで、この魔女が失敗を後悔して斜塔をまっすぐにするのだが、まっすぐになると斜塔は「単なる一地方の教会」でしかない。観光客も来なくなり、ピサ市としても困ってしまう。ところが、また傾けさせるには元々の失敗の原因がわからなければならず、主人公の魔女サマンサがエスメラルダを連れて斜塔建築時の過去に遡る。
すると、斜塔の建築家ピサーノにエスメラルダが好意を持ち、毎日昼食を作りに通っていた。塔建築中だったので、盛り付けをタワー型にするという凝り様だ。メニューはピサーノが自分好みに指定するのだが、これが「赤身の肉」。英語では lean だ。魔法で料理するので、エスメラルダは 'Tower, lean!'(タワー、赤身の肉!)と呪文を唱える。英語のlean には「傾く」という動詞の意味もあるので、これが「塔よ、傾け!」の呪文となり、塔が斜塔になったというわけだ。

ピサの斜塔には「建築家ピサーノが受けを狙ってわざとに傾けた」という説もあったらしいが、実際には地盤の問題だったことがわかっている。「翔んだカップル」のNG集が受けたのも受け狙いではない失敗が面白かったからだ。
「結果オーライ」などと言われるように、失敗が成功することもある。

新企画!今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. ラジオドラマ「翔んだカップル」でヒロインを演じた歌手(「まちぶせ」がヒット)は?
  2. 映画「翔んだカップル」でデビューした「ふぞろいの林檎たち」で知られる女優は?
  3. 日本語吹替版「奥様は魔女」で英語の洒落が使えないため lean の代わりにタワーランチのメニューになったのは(「傾き」の洒落)?

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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