T氏のすべらないコラム

◆覚えた量より使い方

2012年7月

迷子のインコを保護したところ、そのインコが「相模原市・・・」と所番地を繰り返す。その住所に連絡したら、果たしてインコの飼い主の住所で、賢いインコは無事帰還というニュースが5月にあった。飼い主は迷子になったときのことを考えてインコに住所を覚えこませていたという。人間の言葉を真似して喋れるインコの特性を生かした逸話である。

大林宣彦監督の映画「さびしんぼう」には宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」を暗唱する「賢いオウム」が登場する。校長室で飼われているこのオウムの暗唱を聞くのが掃除を命じられた男子高校生三人組。1人が「賢い」と感心すると、他の1人が「人の言うことを真似しているだけで賢くない」と言い、オウムの面前である替え歌を歌いだす。翌日、PTA会長を前に「利口なオウムでしてな、今、宮沢賢治を教えとります」と自慢する校長。それに応えて喋りだしたオウム、「雨ニモマケズ、風モナイノニブーラブラ」
――宮沢賢治と前日の替え歌を混同したのだ。

上方落語の重鎮だった故六代目笑福亭松鶴師匠がスーパーの大安売りで九官鳥を購入した。大安売りだったせいか、この九官鳥、全然賢くない。つまり、言葉覚えが悪いのだ。それでも電話機の傍で飼われていたため唯一覚えたのが電話に出た師匠が必ず放つ第一声。「もしもし」を想像する向きが多いだろうが、この師匠の場合は「誰やっ?」(関西弁の誰何)だった。ある日、全員が出払い、無人となった松鶴家に酒屋の御用聞きが訪れる。「酒屋ですっ!」と声をかけると、中から「誰やっ?」。聞こえなかったかと再び「酒屋ですっ!」。するとまた、「誰やっ?」。これを何度も繰り返すうちに、カッとなった酒屋さん、頭に血が上り、血管に異常を来したか、その場で卒倒してしまった。そこへ帰ってきた松鶴師匠、自宅前に男性が倒れている。思わず駆け寄り、抱き起こして「誰やっ?」。
――と、中から九官鳥が「酒屋ですっ!」。

三鳥三様だが、イソップの寓話風に考えると、暗記力でいえばオウムが1番。しかし、意味もわからず暗記しているため定着せず、他のことを教えられると混同してしまう。インコの場合はマニュアル対応、こういうときにはこう言いなさいというのがうまくはまった。さて、九官鳥、暗記量は最も少ないが、実用で使い、その場で新たな言葉を覚え、それを当意即妙に使いこなした。覚えた量より使い方だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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