コンサルタントの本音

マネージャーのコーチング

2017年5月

マネージャーと部下のコミュニケーションは、いつの時代でも人材開発のポイントの一つである。先日も、コーチングを社内に導入しようと考えている人材開発担当者から相談を受けた。それは、コーチングのヒントになればと無料体験セミナーに参加したものの違和感を覚え、コーチングの研修だけではうまくいかないかもしれない印象を持ったが、これからどうすればいいだろうか、といった相談であった。その話を聞いて思ったのは、「限られた時間の中でのコーチング体験では全体をつかみきれないのだろうか」、「コーチングができる環境を社内で整備するには時間がかかるのではないか」ということである。

NLP(Neuro-Linguistic-Programming)コーチングで有名なロバート・ディルツ博士は、「人間の学習と変化のレベルには6つのレベル」があり、それぞれに異なるタイプの援助が必要になると言っている。6つのレベルとは、(1)環境、(2)行動、(3)能力、(4)信念・価値観、(5)自己認識、(6)スピリチュアルであり、後者のレベルであればあるほど、変化への影響度が大きい。変化には、環境を変える、行動を変える、能力を変える、信念・価値観を変える、自己認識を変えることが必要で、それに対して、(1)新しい環境に適用するにはガイディング(案内)とケアリング(ケア)、(2)行動を改善するにはコーチング、(3)新たな能力を身に着けるのはティーチング、(4)信念・価値観を強化するにはメンタリング、(5)自己認識レベルの成長を促すにはスポンサリング、(6)スピリチュアルな意識を高めるにはアウェイクニング(覚醒)の援助が必要であるということである。

全体を広義のコーチング、(2)を狭義のコーチングと考えると、上司はコーチングを実践する際に、ティーチングしたりメンタリングしたりするスキルも持ち合わせている必要があるということになる。例えばメンタリングでは、部下の存在を大切に想い、心から応援し、必要に応じて自分の考え方が問題を解決できない理由になっていることに気づかせるようなコミュニケーションが必要である。

しかし、社内研修などでコーチングの能力開発を行う際に、信念・価値観や自己認識レベルまで扱うケースは稀有である。これらは、ビジョンや価値観の共有という別のプログラムで推進しているケースが多い。これらの能力開発とコーチングを行う場の設定やコーチング研修とをどう連動させてマネージャーのコミュニケーション力を高めるかを考える必要があるのではないだろうか。そのために、ビジョンや価値観の共有に関して常日頃から経営トップや幹部とオープンでフラットな双方向のコミュニケーションを取ることもまたマネージャーのコミュニケーション力を高めるために必要なことである。そうした環境が整っていてこそ、初めてコーチング研修を導入する価値があるのではないだろうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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