T氏のすべらないコラム

◆どこかでどこかでエンジェルは

2015年5月

この「エンジェル」という言葉、元々は英国で演劇事業に出資する個人を意味していた。確かに映画演劇といった芸能の世界も資金供給の流れは、起業に近い。例えば、映画産業を代表する一人、スティーヴン・スピルバーグの場合、ユニバーサルスタジオに居候を決め込んでいた'3F'段階を経て映画のオープニングタイトル制作会社経営者がエンジェルとなり、製作資金を得る。そして完成した自主製作作品が評価され、ユニバーサルスタジオと正式に契約でき、まずはTVドラマの監督となる。その記念すべき第1作は、刑事ドラマのレギュラー放送第1回――刑事コロンボ「構想の死角」だった。

「構想の死角」は、共同でミステリーを執筆していた?二人が犯人と被害者になる殺人事件を描く。コロンボは、被害者夫人が質問に笑ったことが気になり、理由を聞くと、"Maybe it was the way you put it." 「あなたの言い方がおかしかったのよ」―― put it は、この場合「表現する」の意。その'表現'とは "Writing team" で、実は共同執筆とうたっていたものの、犯人(とは夫人は知らないが)の方は "hasn't written a word" 「一語も書いたことがない」――代わりに宣伝、映画化交渉等を行っていたという。いわば開発技術者と実務家コンビだが、小説の共著者とはいえない。さらに被害者が今後は一人でやろうと決めていたことを知ったコロンボは "I'd hate to be in his shoes." 「彼(犯人)の立場になるのは嫌だ」と動機を悟る。in one's shoes は「誰々の立場になって」の意。最後は被害者の書いたメモが証拠となり、犯人が "Whoever thought that idiot would write it down?" 「あのばかがそれをメモするなんて思いもしなかった」と述べて終わる。Whoever は反語表現。idiot は冒頭の fool と同義。「ばか」といっても「常識はずれ」の意で、無論「知性が劣っている」わけではない。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 1985-6年にかけて雑誌朝日ジャーナルに連載された対談コーナーで企画時には「海のものとも山のものとも」というタイトルだったのは?
  2. 二人で共同執筆のミステリー作家「エラリー・クイーン」が「Xの悲劇」に始まる悲劇4部作刊行時に使用した別名は?
  3. スピルバーグのTVドラマ監督第2作で、放映時の反響の大きさから後日劇場公開されたのは?

先月のクイズ正解

  1. 立川梅春
  2. 孔雀
  3. ピエール・ブール

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ページの先頭へ戻る