T氏のすべらないコラム

◆まわってまわってまわってまわる

2015年4月

今週末(4/25)公開の北野武監督最新作「龍三と七人の子分たち」――このタイトルは当初仮の題名として提示していたのをそのまま使うことになったという。最初にこのタイトルを聞いた時、主要キャストの一人である近藤正臣氏は「仮だよな。まさかほんとには使わないよな」と確認し、「本題は代えます」という答えに安心していたら後でそのまま使うことになったと知らされ、唖然としたそうな。氏いわく、「『白雪姫』じゃああるまいし・・・」。北野監督とすれば黒澤明監督の「七人の侍」を意識したのだろうが、近藤氏が連想したのは「白雪姫と七人の小人たち」だったというわけだ。

筒井康隆氏の短編「桃太郎輪廻」では桃太郎が白雪姫と遭遇する。童話のオールスターキャストといっていい小説だが、桃太郎と白雪姫との絡みではやはり七人の小人たちがキーとなり、桃太郎が白雪姫の体に七人の小人たちとの生活の痕跡を認めるのがオチとなる。
この「桃太郎輪廻」、輪廻とあるとおり、因果は巡る糸車、最後に桃太郎は死を迎えるのだが、死の直前に仕掛けた行為が原因で場面はこの物語冒頭に戻る。つまりストーリーは際限なくループするという仕掛けだ。ループには作例が多く、手塚治虫は「火の鳥」未来編で他編を含めた全編をループ、異形編の八百比丘尼殺害にまつわる小編も冒頭に戻る繰り返し、広瀬正「マイナス・ゼロ」はタイム・マシンによるループが核となる。映画「猿の惑星」シリーズは最終第5作エンディングが第1作冒頭へとつながるループものだ。

その「猿の惑星」では知能の発達した猿に人間が支配されているのだが、第1作は地球を発した宇宙船がその星に不時着するところから始まる。主人公は囚われの身となり、人間の脳を調べる実験室に入れられるのだが、猿社会も知能が発達すれば人間社会と同じようなしがらみが出るようで、実験室では学者同士がこんな会話を交わしている――"You don't sound happy in your work." 「仕事が楽しくないようね」 seem と sound はどちらも「~のようだ」の意だが、見た目で判断するのが seem、聞いて判断するのがsound。だから、ここは不満げな口ぶりを聞いての判断というわけだ。どうやら上司が嫌な奴のようで、上司を評して "You know how he looks down his nose at chimpanzees." 「彼がいかにチンパンジーを見下した態度をとるか知ってるでしょ」――look down one's nose は「上から目線の態度」を意味する。あれ、ここはチンパンジー社会では?と思ったら、上司はなんとオランウータン、猿社会も発展すると猿種差別が生じるようだ。猿の言葉は英語(原作小説では猿独自の言語が発達)で、だから人間の主人公にも理解可能、会話もできるというわけ。いやぁ、英語って本当にいいもんですね~。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 北野武監督が今年落語家として襲名した名前は?
  2. 「火の鳥」乱世編で平清盛が「火の鳥」だと思い込まされた鳥は?
  3. 「猿の惑星」原作小説の作者は?

先月のクイズ正解

  1. 柳家小三治
  2. 三浦綾子
  3. アート・ガーファンクル

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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