T氏のすべらないコラム

◆世代がちがえば'クニ'もちがう

2015年2月

ある旧制高校のOB会が開かれ、八十代後半の方々が宴席に集った時のこと――会場となった店のアルバイトの女子大生に一人が「クニはどこ?」と話しかけた。女子大生は怪訝そうな顔で一瞬沈黙した後、「日本です」と笑顔で答えた。今度は聞いた方が怪訝そうな顔で沈黙の後、「いや、クニはどこなの?」と再び尋ねた。女子大生は困惑の態だったが、意を決したかのように「ジャパン!」と言ったそうな。「お前は郷ひろみか!」などというツッコミはもちろん入らず、双方沈黙で終わったという。

川端康成の「雪国」は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という文で始まるが、この「国境」は「コッキョウ」か「クニザカイ」かで論争がある。「クニザカイ」論者は、国家間ではなく、日本国内の旧名上野の国から越後の国(つまり群馬県から新潟県)に入ったことを言うのだから「クニザカイ」と主張する。旧制高校OBの言う「クニ」もこの国で、出身地、故郷の意味で使ったのだが、今の大学生には全く通じなかったというわけだ。英語でいえば「クニ」は 'old hat' 「時代遅れ」ということになる。

かつて来日する覆面プロレスラーは「国籍不明」などと称していたが、ツービート時代のビートたけしが「パスポートはどうするんだ」とそのインチキぶりをネタにした。覆面レスラーはともかく、米国CIAのような諜報機関ともなると本格的だ。映画「ボーン・アイデンティティー」では、記憶を失ったCIA諜報員が自分の臀部に埋め込まれていたマイクロカプセルに記されていたスイスの銀行の口座番号を頼りに記憶を取り戻そうとする。銀行で引き出された貸金庫の中には――"Who has a safety deposit box full of money and six passports and a gun?"「貸金庫に大量の札束と6つの旅券と拳銃、そんな人物がいるか」6つの旅券発行国は別々、まさに国籍不明だ。

「刑事コロンボ」にも殺人犯がCIA諜報員だったというエピソードがある。CIA諜報員とは知らぬコロンボ、いつものようにつきまとううちに、CIA幹部に呼び出される。身分を明かすCIA幹部にコロンボは "Whatever it is, sir, I won't breathe a word."「どんな内容であれ、一言も漏らしません」と約束する。breathe は「呼吸する」でおなじみだが、ここでは「口外する」の意。そして犯人も被害者もCIA諜報員と知ったコロンボは spy 「スパイ」という言葉を使う。CIA幹部は "Spy's old hat. They're referred to as operators."「スパイは古い言葉だ。今はオペレーターと呼ばれるよ」――~ is old hat. It's referred to as -- . と言いたい時はないですか。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 「ボーン・アイデンティティー」の主演俳優は?
  2. CIA長官経験者で米国大統領になった人物は?
  3. 文中の「刑事コロンボ」エピソードで犯人役、コロンボシリーズで犯人役最多出演の俳優は?

先月のクイズ正解

  1. 隠岐の海
  2. ロサンゼルス・ドジャース
  3. エステル・パーソンズ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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