コンサルタントの本音

◆デザイン思考とビジネスモデル

2014年5月

前回のコラムでデザイン思考の研修が増えている背景について述べたが、今回はデザイン思考とビジネスモデルについて考察してみたい。デザイン思考の特徴の一つにプロトタイピングがある。アイデアをすばやく可視化し、顧客など関係者に印象を聞き、段階を踏みながら徐々によりニーズに合ったものに近づけていく手法である。例えばプロダクト開発のケースでは、まずは回りの有り合わせのものを組み合わせて形状や機能のイメージを作成し、そのイメージを共有しながら意見交換ができるようにして検討を進めて行く。

では、事業検討の際のプロトタイピングは何であろうか。ひとつのツールがビジネスプランである。更にビジネスプランではわかりにくいビジネスモデルのプロトタイピングとして、最近は「ビジネスモデルキャンバス」を活用するケースが増えている。「ビジネスモデルキャンバス」とはビジネスモデルの構想を必要な9つの視点から検討するツールである(顧客セグメント/バリュープロポジション/チャネル/顧客との関係/収益の流れ/キーリソース/キーアクティビティ/キーパートナー/コスト構造)。とても有用かつ優れたツールではあるが、これ自体はあくまでプロトタイピングなので、この使い方を体得しただけでは十分ではない。

ビジネスモデルを検討する際に押さえておくべき要件は、(1)事業コンセプト、(2)収益モデル、(3)価値実現のストーリーの3つである。(1)事業コンセプトは、ターゲット顧客、提供する顧客価値、実現する技術・ノウハウで構成される。「ビジネスモデルキャンバス」を記入する前に、まずはこの事業コンセプトを明確にしたほうが良い。事業コンセプトを作成する際にデザイン思考でこだわるのは、「人を見る」ということである。人の満たされていない欲求をどのように発見し、解決策を提供するのかという点を重視する。しかし、ここで注意しなければならないのは、アイデアを出すことだけに一生懸命になり過ぎると、マーケットを見なくなってしまう危険性があることだ。事業を考えるということは、そのアイデアが実現されると、どのくらいの市場になるのか、規模や成長性はどうなのか等を検討しなければならない。面白いアイデア出しに熱中して固執し過ぎると、マーケットの検討がおろそかになる。

(2)、(3)は、どちらが先かは状況次第である。(3)の価値実現のストーリーとは、自社の技術・ノウハウと何を組み合わせれば実現できるかを検討することである。不足している技術・ノウハウ・プロセスをパートナーに依存することかもしれないし、社内の他部署との連携かもしれない。不足しているノウハウ、リソース、プロセス、機能をどう補い、事業に仕上げていくかということである。

肝心なことは、プロトタイピングは完成形ではなく、あくまで途中段階であるということ。従って、「ビジネスモデルキャンバス」を活用する場合でも、あまりきれいにまとめないことが肝心で、きれいにビジネスモデルを描いてしまうと、その内容に固執してしまう恐れがある。いろいろな意見を基にどんどん変えていきながら理想に近づけるアプローチ手法がプロトタイピングの本質であるから、固執は最もやってはならないことである。

デザイン思考を入れた好事例があまり表面に出てこないのは、こうした点の考慮ができていないことも一因ではないだろうか。

前回に引き続き、デザイン思考の活用について参考になるセミナーや研修を設けているので、ぜひ参考にしていただきたい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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