T氏のすべらないコラム

◆ベシャリ上手

2014年3月

「銀座で寿司」を「ザギンでシースー」(流石にこれは今や茶化してしか使われないが)などと、メディア業界では言葉を逆さにすることが多い。'ベシャリの上手下手'もそんな業界用語の一つで、これは落語家や司会者のような話しのプロ以外の人物の「しゃべり」の巧拙を言う。この言葉がよく使われた時代の「ベシャリ上手」といえば、スポーツ界でアントニオ猪木(元気があればベシャリもできる?)、音楽業界ではさだまさし(落研出身の強みか?)の名が挙がった。海外に目を転じると、スポーツ界ではモハメド・アリ(奇しくもアントニオ猪木と対戦した「格闘技世界一決定戦」では、賛否両論の本番より対戦前のベシャリ合戦の方が格段に盛り上がった)、音楽業界ではジョン・レノンといったところだろう。

ジョン・レノンのベシャリ上手は、英国王室主催「ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」出演の際の一幕――ビートルズコーナーも残るは一曲というところで "For our last number I'd like to ask your help. Would the people in the cheaper seats clap your hands? And the rest of you,if you'll just rattle your jewelry."「我々の最後の曲にご協力をお願いします。安い席の方は拍手を。それ以外の方は、宝石をジャラジャラしていただければ」とやって、喝采を浴びた場面が真骨頂と言っていい。

この逸話、'Timing is John's strong suit.' と表したい。timing はここでは「当意即妙、臨機応変」の意で、strong suit はポーカーの強い組札転じて「切り札、長所」といった意味でも使われる。「当意即妙がジョンのベシャリの決め手」というわけだ。客席を見てとっさに放った言葉だが、なにせエリザベス女王も臨席していた音楽会だ。さぞ着飾り、宝石で身を固めたお歴々が目についたのだろう。続けて歌ったのが「ツイスト・アンド・シャウト」だったから、「踊りまくって叫べ」という歌声に応じて盛大なジャラジャラが聞けたにちがいない。

この音楽会の主催者は女王の母君エリザベス皇太后だった。皇太后の夫君英国王ジョージ6世は、ジョンとは真逆のベシャリ下手で、それを克服しようと苦闘する姿は映画「英国王のスピーチ」に詳しい。映画ではベシャリ下手を治そうと言語療法士ライオネル・ローグのオフィスを訪れたジョージ6世にローグが 'Do you know any jokes?' 「何かジョークを知っていますか?」と尋ねる。ジョークなら緊張せずに言えると考えたのだろう。対してジョージ6世、 '...Timing isn't my strong suit.' 「とっさにそんなことが言えれば苦労しない」というわけだが、これはこれでジョークのような答えだ。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. さだまさしの「雨やどり」(歌詞の最後は落語のオチ的)で女性が男性に貸してあげる買ったばかりのハンカチに描かれているキャラクターは?
  2. 「キンシャサの奇跡」でチャンピオンに返り咲いたモハメド・アリの初防衛戦に触発されて書いた脚本が映画化され、自ら主演した人物は?
  3. ジョン・レノン殺害犯が現場で読んでいたといわれる小説の作者は?

先月のクイズ正解

  1. 石田純一
  2. 悪い奴ほどよく眠る
  3. 地上より永遠に

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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