T氏のすべらないコラム

◆大変な世界

2014年2月

話題の作家百田尚樹氏が初回から参画しているTV番組「探偵!ナイトスクープ」の初代探偵局長上岡龍太郎氏が漫才をやっていた時代、楽屋でいつも花札をやっている芸人の一団があった。ある日、そのうちの一人が犬のブリーダーになれば儲かるという詐欺話に引っかかって大損の末自殺する。それを聞いた芸人連は面子を一名欠いたものの、いつも通り花札に励み、あまつさえ「これがホンマの犬死にやな!」と仲間の死をネタに笑い合う。それを見て上岡氏は「自分は大変な世界に入ってしまった」と実感したそうな。

そんな「大変な世界」代表のマフィアを描いた米国映画「ゴッドファーザー」は、台詞がビジネスシーンでもよく引用される名作だ。中でも交渉時の定番表現といっていいのが、人気落ち目の歌手ジョニー(フランク・シナトラがモデルとされる)がマフィアの首領コルレオーネを訪れる場面――'My voice is weak, it's weak.' と歌手として声が出なくなったことを嘆くジョニーだが、ある映画に出演すれば復活できると言う。それは 'The main character is a guy just like me. I wouldn't even have to act, just be myself.' 「役が自分そのままで、演じる必要もなく、地でやればいい」程のはまり役だからだ。しかし、その映画のプロデューサーはジョニーをある事情から嫌悪しており、ジョニーを配役する気は全くない。そこで自分の'Godfather'(名付け親)コルレオーネの力で何とかとすがる。

コルレオーネは 'And a month from now this Hollywood big shot's gonna give you what you want.' 「1か月後には、このハリウッドの大物はお前の望むものをくれるよ」と引き受ける。big shot は「大物」の意味で'使える表現'だ。そして交渉時の定番 'I'm gonna make him an offer he won't refuse.' 「彼が拒否することのない条件を出そう」となる。是が非でも取りたい案件で相手が断るはずがない程とことん譲歩する決断を下す時に使われる台詞だ。そして 'I want you to leave it all to me.' 「私に全部任せてほしい」と請け合う。これも言ってみたい台詞だが、案に反して交渉は難航、そこで映画史上名高い「犬死に」ならぬ「馬死に」シーンとなる。

「大変な世界」が舞台の「ゴッドファーザー」だから、'YOU CAN ACT LIKE A MAN!' 「男らしくしろ!」とか 'cries like a woman' 「女みたいに泣く」といった妥当でない表現やイタリア人に対する侮蔑語の 'dago guinea wop greaseball'さらには 'son-of-a-bitch' 等罵詈雑言も満載で'使えない言葉'も多いが、洒落た'使える表現'もまた多い。'I want you to use all your powers, and all your skills.' (コルレオーネの台詞)で見極めてほしい。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 「探偵!ナイトスクープ」の初代秘書は結婚を機に引退降板したが、そのときのお相手の俳優は?
  2. 映画「ゴッドファーザー」はコルレオーネの娘の結婚式から始まるが、これはある黒澤明監督映画を参考にしている。その作品は?
  3. 実際のフランク・シナトラがアカデミー賞助演男優賞を獲得して奇跡のカムバックを果たしたフレッド・ジンネマン監督作品は?

先月のクイズ正解

  1. 庄司陽子
  2. ローレンス・オリヴィエ
  3. フランシス・フォード・コッポラ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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