T氏のすべらないコラム

◆主人公死すとも・・・

2013年11月

レギュラー放送のサスペンスドラマで大物俳優がゲスト出演すると、真犯人役の場合が多く、犯人当てという意味では興味がそがれる。そこで、大物俳優演じる真犯人と刑事や探偵役の知的駆け引きで視聴者を引き付ける――米国のTVミステリー「刑事コロンボ」がその本家といっていい。

その「刑事コロンボ」で唯一コロンボが犯人を逮捕せず見逃す?エピソードがある。「忘れられたスター」という一編で、犯人の年老いた往年の大スター役をジャネット・リーが演じている。彼女の最も有名な出演作「サイコ」から15年、往年の大スターというのははまり役だった。

「サイコ」公開当時の1960年、ジャネット・リーはまぎれもなくスター女優の一人だった。この映画はジャネット・リー演じる不動産会社OLが会社の金を持ち逃げする場面から始まる。さあどういうサスペンスが展開されるかと固唾を飲んだところで意外や意外――「サイコ」製作過程を描いた映画「ヒッチコック」では、監督のアルフレッド・ヒッチコックが脚本家の妻アルマに 'Just think of the shock value. Killing off the leading lady halfway through.' 「ちょっと衝撃度について考えてくれ。主演女優を中盤で殺すんだ」と提案するが、アルマは 'You shouldn't wait until halfway through. Kill her after thirty minutes.' 「中盤まで待っちゃダメ。始まって30分で殺すのよ」――配役自体がある意味トリックで、ヒロインと思われたスター女優は上映30分で殺されてしまう。'Just think of the shock value.' はあっと言わせるようなアイディアを切り出す時に使える表現だ。

'The Master of Suspense' 「サスペンスの巨匠」と呼ばれたヒッチコックは、常に 'the shock value' を考えていた。映画「ヒッチコック」では、次回作を「サイコ」と決める前に当時まだ映画化されていなかった007「カジノ・ロワイヤル」を映画会社MGMが、まさにヒッチコックスタイル――'Definitely your style.' と提案する。しかし、ヒッチコックはそれでは前作「北北西に進路を取れ」と同じだと断り、'And "style", my dear, is mere self-plagiarism.' 「『スタイル』だなんて、君、単なる使い回しだよ」とダメ押しする。plagiarism 「盗作」に接頭語 self- 「自分の」を付け、「自己作品の盗作」つまりアイディアの使い回しというわけだ。

映画のラスト、ヒッチコックが次回作について「アイディアは天から降ってくることもある」と言ったところで巨大なカラスが彼の肩に舞い降りる。
「サイコ」の次のアルフレッド・ヒッチコック監督作品は「鳥」だった。

今月のクイズ(正解は来月号に掲載)

  1. 映画「ヒッチコック」主演のアンソニー・ホプキンスがアカデミー賞主演男優賞を受賞した時に演じた精神科医にして連続猟奇殺人犯の役名は?
  2. 日本でも米国と同年に公開された「サイコ」だが、キネマ旬報外国映画ベスト10では35位に終わった。その年の外国映画第1位は?
  3. 英国の雑誌「サイト&サウンド」が、10年に1度実施する「史上最高の映画」アンケートの2012年版評論家選出の第1位に輝いたヒッチコック監督作品は?

先月のクイズ正解

  1. ゲゲゲの~
  2. 夏目三久
  3. ジュリアーノ・ジェンマ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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