T氏のすべらないコラム

◆間違いいろいろ

2012年8月

「赤頭巾ちゃん気をつけて」が芥川賞を受賞したのは小学生の時だ。これは赤白黒青の連作と予告され(執筆順は赤黒白青)赤に続き黒白と刊行されたところで、白の「白鳥の歌なんか聞こえない」をタイトルにTVドラマ化される。

ヒロインの女子高生由美を高校三年生の新人が演じたのも話題だった。小学生にとっては「きれいなお姉さん」というわけで周囲皆彼女のファンとなるのだが、女優の名前は配役で由美として紹介される文字を通して知るのみだ。
ともあれ、番組放映翌朝は朝礼そっちのけで彼女の話題となる。番組は銀河テレビ小説として平日毎晩放映されたから、翌朝すなわち毎朝で、担任教師の顔は日に日に険しさを増す。
そしてある日、またぞろ一人がその女優の名を口にしたところで担任の怒りが爆発する。「ニカアキコが...」「お前らっ!あれはニカアキコ(仁科明子)と書いてニシナアキコと読むんだっ!」
――今は亜季子と改名され、もっと難しくなったようだが...。

それから10年。中学を舞台とする学園ドラマから男性アイドルが輩出する。
人気の彼等が全力投球するショー番組が生れ、その1コーナーとして連続時代劇コメディが作られた。題材は「太閤記」で、人気No.1を競う一人が織田信長役、もう一方が木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)だ。劇中才覚の一端を示し始めた藤吉郎に信長が「猿、その方もなかなかの者じゃのぉ」と声をかける。
対して藤吉郎「いいえ、私はそのようなキではございません」
――周囲?となり、NG。台本の「器(うつわ)」が読めなかったのだ。後のヒット曲「愚か者」を地で行ったか...。

新作落語の雄だった故春風亭柳昇師匠は大正末の生れ。学童期は何より質実剛健を尊ぶ時代だった。そこで、ある日「自分の理想」という課題の作文に、「自分の理想は狼を山の中に連れ込み、二人きりになって取っ組み合い、2、3発殴って組み敷き、狼の上に乗ってやることです」と書く。まさに質実剛健、ワイルドだろぉー?というわけだ。
ところが、これを読んだ教官にいきなり「貴様、何を考えとるかっ!」と殴られる。ケモノ偏と女偏を間違えていたのだ。狼が娘になってしまった...。

間違いも三態三様だが、最初の間違いは何をどう間違えているかわかる間違い。進行には問題なく、2、3回なら「敢えて指摘しなくても」と見過ごしてもらえることも多い。次の間違いはわけのわからない間違い。周囲は唖然とし、進行は止まる。最後の間違いは別の意味で通ってしまう間違い。周囲は誤解し、あらぬ方向に進行してしまう。取り返しのつかない間違いには最後のパターンが多い。<

今回の特別コラムはいかがでしたか?
今後、コラムを増やしていく予定です。
どうぞお楽しみに!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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